<オトナの旬食手帳> 伊藤は愛し、秀吉は嫌った? 淡白&上品な大人の魚・フグを語れる男になろう!
フグの美味しさに気付けば、大人になった証拠。
淡白で清潔感ある味わいの先に、旨味と甘味のコントラストが隠れている。
ジューシーな脂身に、美味しさを感じるのは若い頃のお話。
フグのような上品な味わいを嗜んでこそ、粋な大人と呼べるだろう。
今回は、そんなフグにまつわる小話を少々。
仲間とフグ鍋を囲む際に、さらっと話し聞かせてはいかがだろうか。
漁獲量No.1は、北陸新幹線に乗って。
フグの旬は、11月~3月の寒い時期。
種によって異なるが、日本各地の水深200mほどの浅瀬に生息している。
食用として用いられるのは、ご存知の通り『トラフグ』。
てっぷりとした白いお腹、マダラ模様の皮が特徴である。
天然物は少なく、高級魚として取引されているトラフグ。
身の部分は刺身、コラーゲンの多い皮の部分は煮こごり、ひれはひれ酒、肝臓・卵巣などの毒性のある部位以外は余すことなく食べられる。
漁獲量日本イチは、石川県の能登半島。
寒ブリ、ズワイガニ、カキなど冬の味覚で有名だが、天然のトラフグもたくさん水揚げされる。
農林水産省漁業・養殖業生産統計によると、2012年のトラフグの漁獲量は982トン。2位の福岡県で488トン、3位の富山県で438トン、その差は歴然である。
北陸新幹線開通による観光客増員を目指し、2012年には『能登ふぐ事業協同組合』を結成。
能登の新鮮なフグを味わえる日本料理店やフレンチレストランを紹介しているので、石川県を訪れる際には要チェックだ。
http://www.notofugu.com/
河の豚で、なぜフグと呼ぶ?
河に豚と書いて、フグと呼ぶ。
なんとも不思議な名前だが、その語源をご存知だろうか。
古来、日本ではフグのことを「布久(ふく)」「布久閉(ふくへ)」と呼んでいた。
腹をふくらます、ふくるるが由来である。
ちなみに、フグは縄文時代から食べられていたそうだ(貝塚で骨が発見されている)。
また、もともと中国では、河川に生息する種のフグが親しまれていた。
河川に生息するから”河”、ふくれた姿や泣き声が豚に似ていることから”豚”、この2つを合わせて”河豚”となったとされている。
いずれにせよ、昔からフグは人々の食に欠かせない魚だった。
と、綺麗にまとめたいところだが、実はそうでもないらしい。
例えば、戦国時代には『ふぐ禁止令』なるものが発令された。
それを命じたのは、なんと、あの豊臣秀吉。
朝鮮に出兵するとき、途中で立ち寄った下関で家来がフグを食べたところ、バッタバッタとお亡くなりになったのである。
それに参った秀吉は、家来にフグを食べることを禁じた。
この禁止令は江戸時代からも長く続き、なかには厳しく取り締まった藩もあったそうだ。
……とはいえ、今のように法律が厳しくなかった時代。
一般庶民は、こそこそと隠れて食べていた。
その証拠に、俳諧、落語、浮世絵にはフグに関する記録が多く残っている。
江戸時代を代表とする俳諧人・小林一茶が、「鰒(ふぐ)食わぬ奴には見せな不二の山」という句を残しているくらい、フグの美味しさには誰も逆らえなかったのだ。
フグ食がついに解禁されるのは、明治時代に入ってから。
初代総理大臣・伊籐博文が山口県の下関で食したフグ料理に感動。
以後、フグ食は日本各地に広まっていき、昭和58年にフグ条例が制定されることになる。
伊藤博文が下関を訪れ、フグと出会っていなければ、フグ解禁はもう少し遅れていたかもしれない。
産地別! 美味しいフグ料理をご紹介。
下関春帆楼(しゅんぱんろう)
http://www.shunpanro.com/
石川県と共に、フグ漁が盛んな下関。
ここでは、フグのことを『フク』と呼び、縁起が良いものとされている。
オススメは、下関に本店を構える『春帆楼』。
先述した、伊藤博文にフグ料理を提供した老舗である。
盛り皿の模様が透けて見えるほど、匠の技が光る”フグ刺し”は、舌だけでなく目でも味わいたい。
東京都内だけでなく、大阪や名古屋にも店舗を展開しているのも嬉しいポイントだ。
住所:〒750-0003 山口県下関市阿弥陀寺町4 阿弥陀寺町4−2
電話:083-223-7181
営業時間:11:00〜22:00(予約制)
休業日:なし
東京店
住所:〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-9 JA共済ビル
電話:03-5211-2941
営業時間:11:30~14:30(L.O.14:00)17:00~22:00(L.O.21:00)
定休日:日曜・祝日(盆・正月休みあり)
づぼらや
フグの消費量日本イチを誇る、大阪。
関西特有の呼び方で、フグのことを『テッポウ(鉄砲)』、フグ料理のことを『ちり』と呼ぶ。
フグ食禁止令が出されていた江戸時代、「掟を破り、命をかけて食べていた」「あまり真面目な人は食べなかった」という理由から、当たれば死ぬ。
でも、滅多に当たらない鉄砲を「バレたら死ぬ、でも、滅多にバレない」に置き換えて呼ぶようになった隠語である。
大阪で有名な『てっちり(フグ鍋)』を楽しむなら、『づぼらや』が有名所。
トラフグを模った大きな提灯が目印で、天然フグをリーズナブルな値段で食べることができる。
浪花の鍋料理の王様を、本場・難波で味わってほしい。
住所:〒556-0002 大阪市浪速区恵美須東2-5-5
電話:06-6633-5529
営業時間:11:00〜23:00(L.O.22:30)
休業日:1月1日
http://www.zuboraya.co.jp/index.html
おわりに
淡白であっさりとした味わいのフグ。
その秘密は、脂質が極めて少なく、良質なタンパク質を含んでいることにある。
イノシン酸、タウリン、グリニシンなどのアミノ酸が豊富で、これらが旨味の素。
タウリンとグリニシンの相乗効果により、血圧・コレステロールの低下にも期待できる。
フグ鍋を食すときは、旨味と栄養がたっぷり溶け出した出汁を使って雑炊にし、一滴残らず飲み干したいところだ。
暖かな春を迎える前に、是非とも天然のフグ料理を味わっておこう。