【大山旬さんインタビュー】普通のなかに“こだわり”を持つことが“粋”。普通に見えるけどステキが最高
「今日からスタイリストです」でスタート
大山旬さんはファッションスタイリストとのことですが、どんなお仕事なのでしょうか?
多くの男性は、学生時代や結婚前だと「モテたい」という気持ちがあってオシャレに関心が高いのですが、年齢を重ねるとその感覚が低下して、ファッションへのモチベーションがなくなって行くんですね。じゃ、みなさんファッションに興味がないのかというと、「自分にしっくりくる服を着てみたい」とか「素敵な格好もしてみたい」という願望は多少はあるんです。ただ、どう実現すればいいのかという方法論がわからない。雑誌を見ても価格の高い服しか載っていない。モデルは自分の体形と違う。そこで諦めてしまう。
僕はそんなファッションを諦めた人にまず、何をしたらいいのかを伝えたいと思って、一般人向けのスタイリストという仕事をしています。
大山さんはそもそもどうしてスタイリストになろうと?
大学は社会学部で、教職過程を取っていて『教員になろうかな』と思っていました。
大学4年のときに、4歳くらい年下の従弟が大学に進学するのだけれど、大学でどんな服を着たらいいのかわからない、なので一緒に洋服を買いに行って欲しいとその子の親から頼まれたんですね。
従弟はファッションには興味のない男の子だったんです。洋服代として5万円渡されて彼と一緒にお店を廻って「こんな服を着たらいいよ」とアドバイスしたらガラリと変わって、大学デビューも上手くいったんですよ。
その時、「ファッションで人の性格や、日々の過ごし方はこんなに変わるんだ」ということを実感して、「ファッションを仕事にしてみたい」と思いました。
そのことが切っ掛けとなってファッションの世界に入るようになったんですね。
最初、レディースの靴の販売の会社に就職しました。でも、僕はお店ではゆっくり見たい派なのに、店員としてはお客様にオススメしなければいけない。
そのギャップに悩んで退職し、次はファッション系の専門学校で広報の仕事に就きました。そこは楽しかったのですが、だんだんとくたびれてきて。やはり、自分で考えてやる方がいいと思って独立することにしました。その時、従弟へのファッションアドバイスが楽しかったので、一般向けにスタイリストのサービスをする、というのは面白いかなと思って始めました。
最初はタイヘンだったでしょう?
スタイリストの経験もないのに「今日からスタイリストです」みたいな感じで(笑)。
まず、どうやってお客さんを集めていいのかわからなかったですね。「やる」と言ったら人が来るのかなと思っていました。
人なんて来ないですよね(笑)。それで当時、流行っていたmixiのコミュニティに「こういう仕事をやっていますのでよかったら」みたいなことをいろいろと書き込みしました。すると、引きこもりのコミュニティの人から依頼が来ました。
最初のお客さんは引きこもりの方だったんですね。
ファッションに悩みを持っていて、自分がどう見られているのかわからない、それが怖い。
自分の自信を高めるためにファッションを変えたい、といった要望でした。
今のお客さんは?
最初の頃のお客さんと今はぜんぜん違っていて、経営者の方とか、専門家、人前に立つことがお仕事という方に対してマンツーマンでその方のブランドを作っていく、という仕事をしています。
値段も当初より高くなっています。ただし、志としては、多くの一般の方にファッションの基本をお伝えして、オシャレになっていただきたい、というのは変わっていなくて、マンツーマンの仕事で生計を立てて、その分、ブログや書籍では利益を出さないで、一般の人に向けたアドバイスを発信して行く、ということをしています。
一般の人をオシャレにする仕事ですね。
タレントさんやモデルさんがメディアのなかで輝かせるスタイルの方法と、普通の人が着て印象がよくなるスタイルの方法というのは別物であって、それぞれの役割が違います。
一般の人のなかにはメディアに出る人が着るようなスタイルがひとつのゴールのようなイメージがありますが、そうじゃない。そんなに派手にしなくてもいいし、そんなに派手にする必要はないんです。
日常を快適に過ごして欲しい
一般の方をスタイリングされるご苦労はありますか?
僕がどんなにカッコいいと思ってスタイリングしても、それを着た本人は自分の姿を見慣れていないので、戸惑いの方が大きいんですね。
最初は不安な顔をされます。それはそうですよね。だっていままで着たことのない洋服ですから。プロが「いい」と言ってもわからないですよ。
それが自分のモノとしてこなれるようになるには時間はかかります。
少なくとも4~5回は着てもらわないとわからない。実は最初、そのことに僕は気づいていませんでした。
どうして気づいたのですか?
1回、スタイリングした人がリピートしてくれた時に、元の姿に戻っていたんですよ。
自分の安心できる服をまた着ちゃっていた。僕は「僕が選んだものを着てもらえばいい」という自分の勝手な押し付けをやっていたわけです。
それは悲しいですね。
あと、選んだものは着れるけど、次に自分ひとりで買いに行ったときに何を買っていいのかわからない。再現ができないんです。
僕の感覚で選んでいるので、その感覚が本人にないと再現ができないんです。
それは僕にはとてもショックでしたね。僕が服を選ぶときにはやはり理屈があって選んでいるんです。この色がいいとか、こういうときはこういうモノがいいとか。
それを「センス」とひと言で片づけるのではなくて、ちゃんと理由づけをして説明しようと。
そのため、いまは1回切り、というスタイリングの提供はしないようにしていて、最低、季節ごとにスタイリングを受けてもらうようにしています。
それで一生分のファッションの知識は身についてもらって、クローゼットの中身を全部入れ替えてもらって卒業していたたくという。
そういう説明はなるべくわかりやすくブログにしっかり書くようにもしました。それは大きな転換でしたね。
ファッションを好きになってもらうことが大切ですね。
僕のクライアントはファッションが嫌いか、もしくは興味がまったくないという方です。
ただ、仕事上、仕方なく自分の見せ方を考えなければいけない、というところからスタートして、そこからファッションを好きになっていただく。カッコよくなって気分が悪くなる人はいないので。
その結果、いろんな人から「最近どうしたんですか? センスよくなりましたね」と言われる機会が増えて、よりファッションが楽しくなっていく。
それを季節ごとでやる、ということをしています。
ファッションが変わると日常も変わるということですね。
僕の大前提として、ファッションを楽しむ、というよりも、日常を快適に過ごして欲しい、ということがあります。
ひとりで仕事をしているわけではなくて、相手がいるわけですよね。その相手に良い印象を持ってもらった方が仕事は進みやすいんです。
僕のクライアントにはいろいろな職種の方がいますが、学校の先生もいらっしゃいます。
ファッションに関係のない職種に思うでしょうが、そうではないんです。先生にとっての相手は生徒です。
生徒は『あの先生、野暮ったい』とか『ダサイ』とかすごく見るんですね。
それで先生を馬鹿にしたりする。それで悩んでいる先生は多くいらっしゃいます。でも、ファッションを変えるだけでイメージがぜんぜん変わる。すると生徒は「先生、いつもかっこいいね」「決まってるね」と評価も変わる。すると授業もしやすくなるんですよ。それはどんな職種でも言えることだと思います。
他にはどんな職種の方がいますか?
営業職の人もそうで、クライアントにすれば、ファッションセンスの良い人の方が仕事ができそうと思うし、そういう営業の人の方がいいものを提案してくれるんじゃないだろうか、という期待感になると思います。
また、事務職で直接、クライアントに接しないとしても、周りには女性の事務職の方がいます。
女性は感覚が鋭いので『あの人は野暮ったい』とか『なんか清潔感がないわ』と思ったらコミュニケーションを上手く取ってくれない、ということがあります。
見た目がある程度整っている方が、仕事が円滑に進む、ということは間違いなくありますね。
業種でも変えるんですか?
変えますね。革新的なことをやっていて、尖っているというイメージを与えたい人と、堅実で品が良い、というイメージを与えたい人では目指す先が違ってくるんです。
尖った人とは勝負しない
服選びで一番、大切なポイントはなんでしょうか?
あまりこだわり過ぎずに、新しいモノを定期的に取り入れて行く、ということじゃないないでしようか。
流行に左右されないベーシックな服は長く着れます。でも、3年や5年着ていると、やっぱりちょっと古臭くなるんですよ。
どんどん、おじさんぽくなって行く。今の時代は、こだわって高いものを長く着るというより、値段が安くても質が良いものが多いので、ユニクロなんかはデザインも悪くないし、縫製も、生地のグレードも悪くない。そういったもので充分なので、そんな服を3年くらいで定期的に入れ替えるということが大事だと思います。男性はこだわるんですよ。「これは高かったから長く着る」とか。
けれど、それが高いかは他の人が見てもよくわかんないんですね。
それより今っぽいシルエットだとか、こぎれいに見えるだとか、といったことの方が大事だと思います。
今っぽいモノに変えて行くわけですね。
たとえば、定番の白のボタンダウンシャツでも、微妙に形が違っています。なので、定番でも今まで持っているモノを新しく変えるだけでもぜんせん違います。
大山さんに野望はありますか?
ひとつには学問としてメンズファッションを体系立てたいというのは野望ですね。安い価格でいくのなら、このブラントで、このアイテムを揃えればいい、というのを細かくやる。あとは、いろんな専門家とコラボレーションする。例えばポージングの専門家と組んで、この洋服ではこういうことを意識して歩くと雰囲気が出るとか。そんな活動を通して男性がステキに見えるような環境を作って行きたいと思っています。
ファッションの重要性がわかってきました。
ただ、自分の印象を良くするために必要な要素はファッションだと思っている人は多いのですが、ファッションだけ、というのは大間違いです。ファッションを変えたらモテるようになる、というのは僕はちょっと違うと思っています。
その人の雰囲気とか人柄、ルックス。そういったものが全部、掛け算されてはじめて好印象が生まれるんです。
でも、雰囲気や人柄、ルックスがいいのに、ファッションがいまいちな人がけっこういる。
そこを変えると変わる人はたくさんいると思います。損をしている人は多いと思います。
最後に大山さんにとって“粋”とは?
人はカッコつけたいものなんですよ。カッコつけたいんですが、カッコつけるためには、カッコ悪いことをする方がわりと近道な場合もあると思います。カッコ悪いことをいかにできるか、ということが僕には大切なテーマです。
ファッショナブルに、カッコいいものに憧れる人は多いです。自分のwebサイトをすごく尖ったふうにしたいと誰もが思うし、僕もそういったものがカッコいいという気はします。
でも、僕にとってのカッコよさというのは、そういうものではなくて、泥臭くてもわかりやすく伝えることで、多くの人を変えられるインパクトが果たせたら、それが僕にとってのカッコいい形なのかなと思っています。
大山さんの今日の服装はシンプルですね。
基本的に僕は尖ったことはしないようにしています。普通を極めながらやって行きたいという想いはあります。
個性とか自分らしさというのはファッションにおいてすごく重要です。でも、それをいきなりやるとけっこう難易度が高くて難しいんです。
まずは定番のモノで基準を作ってそこから少しづつずらしていくのがいいと思います。今日、僕が着ているものはユニクロで買ったニットです。ユニクロUというユニクロと世界的に有名なデザイナーがコラポーションしたちょっと一癖あるものです。
こういうものを定番のなかに混ぜ込んであげるとわれりと相性が良くて、ちょっと個性が出せます。
普通であることが大山さんにとって“粋”?
そうですね。普通のなかで「こだわる」ということですね。
逸脱することだけがカッコよさではなく、普通に見えるけれど、そのなかでこだわりたい、ということを常に考えています。
尖ったかっこいい世界の人たちとは僕は勝負しない。「普通に見えるけれど、なんかステキだよね」というのを僕は突き止めたいと思っています。
おしゃれが苦手でもセンスよく見せる
最強の「服選び」
大山 旬
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大山旬(おおやましゅん)
東京生まれ。ファッションスタイリスト、SO styling代表。
アパレル販売職、転職アドバイザーを経て独立。これまでに3,000名以上のスタイリングを担当。
芸能人やモデルのスタイリングではなく、会社員や公務員、自営業、経営者など、一般個人を対象としたファッションコーディネートを専門としている。「自信を高めるためのファッション」をモットーに、多くの人のファッションの悩みの解決に取り組んでいる。
著書に「おしゃれが苦手でもセンスよく見せる 最強の「服選び」」(大和書房)」「できれば服にお金と時間を使いたくないひとのための一生使える服選びの法則」(ダイヤモンド社)、他2冊がある。また「めざましテレビ」(フジテレビ)、「おはよう日本」(NHK)、「読売新聞」、「AERA」(朝日新聞社)など、メディアへの出演も多数。
個人向けスタイリング http://shunoyama.com
オンラインファッション講座 http://so-school.tokyo/lp/