ノスタルジックな映像美に何を思う? 先人の息遣い感じる”必見”サイレント映画 3選。
1,888年。
世界最初の映画『ラウンドヘイ・ガーデン・シーン』が発表された。
日本が世界との交流を本格的に始めた明治初期。
フランスでは”ルイ・ル・プランス”という発明家が、単レンズカメラを使用した映像作品=映画を生み出していたのだ。
同作品が発表されて以来、次々と新たな作品が誕生。
それらはいずれも音声や音響の入っていない、サイレント映画(英:silent film)。
通称・無声映画と呼ばれるもので、今のような”音”を取り入れる技術が進歩するまで登場し続けていた。
褪せたフィルムの独特な色合い。
音がないからこそ注目してしまう映像美。
そこには、現在の作品にはない、ノスタルジックな空間が息づいている。
当然、ほとんどのサイレント映画の著作権は失われている状態。
YouTubeで数多くUPされているので、今回はその中から3作品を厳選してご紹介しよう。
『ラウンドヘイ・ガーデン・シーン』(1,888年)
世界一古い映画としてギネスに認定。
約2秒という超短編映画だが、1888年に撮られたとは思えない映像美だ。
製作者は、先にご紹介した”ルイ・ル・プランス”。
単レンズカメラを使い、映画を初めて発明した「映画の父」とも称されている。
しかし、作品以上に興味深いのは彼の不運さにあると思う。
同作品の初公開計画が急に中止になったり、単レンズカメラの特許を却下されてエジソンに奪われたり、挙げ句の果てには、映画発明から2年後の1890年に突如失踪してしまう。
同じ発明家のエジソンが暗殺したという憶測もあるが、結局は迷宮入りとなった。
そんなミステリアスな背景のある作品。
貴族の平穏な日常を切り取っているが、少々不気味さを覚えてしまう。
“一時停止”を押しながら、じっくりと映像を眺めて頂きたい。
『月世界旅行』(1,902年)
世界初の職業映画監督、ジョルジュ・メリエス。
様々な製作技術を生み出した彼の最も有名な作品が『月世界旅行』である。
1865年に出版された長編小説が原作。
未知なる月の世界を映像化した、世界初のSF映画としても知られている。
YouTubeの動画を観ればお分かり頂けると思うが、当時としては長い14分の作品。
30ものシーンから構成されており、なかなかの満足感を得られるはずだ。
紙芝居を眺めているかのような、手作り感のある舞台も魅力的。
2000年発表の「20世紀の映画リスト」で第84位を飾った、歴史的価値のある作品をあなた自身の目で確かめてほしい。
『不思議の国のアリス』(1,903年)
1865年に刊行された小説『不思議の国のアリス』。
この映画化作品が、今から112年も前につくられていたことをご存知だろうか。
最近発見された当時のフィルムを、国立の英国映画協会(BFI)が最先端の技術を駆使して修正復元。
You TubeにUPされ、今もなお注目を集めている。
特筆すべき魅力は、原作の挿絵がそのまま飛び出したかのような映像美。
フィルムの劣化が激しく、剥げ落ちたり、ボヤけたりしている場面がほとんどだが、それが逆に「アリス」ならではの不気味な世界観を一層引き立てている。
また、この作品以降、様々な名作映画に出演している女優・俳優陣の若き姿にも注目。
原作の小説のページをめくるかのように進む8分の不思議な世界。
是非、部屋の電気を暗くして、映画館さながらの環境で鑑賞してほしい。
おわりに
3DCGを駆使した映像美。
俳優の感情が込められたセリフ回し。
オーケストラが生演奏するダイナミックな音響。
最新の技術を惜しげもなく投入した現在の映画は、観る者に奇跡をみせる。
一方で、サイレント映画には別次元の良さがある。
映像は色褪せているし、音声もないから出演者がなにを言っているか分からない。
しかし、だからこそ、私達の想像力を十二分に駆り立ててくれる。
そして、数百年も前に実際に生きていた人達が登場し、それらを写した映像を、映画という作品を通して観ることができる。
さながらタイムマシンに乗ったかのような体験だ。
古いからと、一蹴するのは勿体ない。
古いからこそ、そこに息づく物語がある。
是非、あなたにも歴史的瞬間を写したサイレント映画を探し、楽しんで頂きたい。