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幕末の交渉人・坂本龍馬に学ぶ「心を動かす説得術」5箇条

幕末。それは260年の徳川幕府が終わりを迎える時代。1867年には徳川が政権を天皇に返還し、歴史的な大革命(大政奉還)が起きた年でもある。
そして、この出来事で忘れてならぬ人物といえば「坂本龍馬」ではないだろうか。
倒幕を決意し、明治維新の引き金となる「薩長同盟」を取り持った男。

しかし当初、薩摩藩と長州藩は犬猿の仲だったため、スムーズに同盟が成立しなかった。
龍馬おらずして成しえなかったと言われるほど倒幕の立役者である。

はたして龍馬は、どのようにして薩摩と長州の仲を取り持ったのだろうか。
そこで今回は、薩長同盟の重要な場面を切り取り、「心を動かす説得術」を龍馬から学んでみたいと思う。

【説得の心得その1】できない理由を探る

薩摩と長州の因縁は一言では語れない。
勢力争いに始まり八月十八日の政変、池田屋事件や蛤御門の戦いなど、互いが目の敵になる出来事が複雑に絡み合っていた。

そんな状況下において龍馬は、西郷隆盛と桂小五郎を引き合わせ話し合いの場を設け、「薩摩と長州で手を組み幕府を倒そうじゃないか」と提案する。

もともと仲が悪く、さらに仲が悪くなった状況のなか、龍馬は薩長同盟を提案したのである。
もちろん、この提案に薩摩と長州が一つ返事で合意するわけがない。

ついに桂は話し合いを諦め、場を去ろうとする。
それまで傍観していた龍馬だったが、「これじゃ意味がない」と慌て、二人の間に入り説得を始めるのだ。

「おい、桂さん。どこに行く?」
「私は長州に帰る。話にならん!もう10日経つのに西郷は何も提案してこないのだ」
「それじゃ、桂さんから提案してみてはどうじゃ?」
「龍馬さん、それはできんよ」
「なんでじゃ?」
「私から同盟を頼んだと世間が知れば長州のプライドに傷がついてしまう」

互いに自ら同盟を提案するなど言語道断という状況。
つまり、プライドを捨てさせなければ話し合いは上手くいかないと龍馬は「できない理由」を理解した。

かといって、「なら仕方ない」と引き下がるわけにはいかない。
「できない理由」を理解したうえで、まずはその原因を解決しなければならない。

【説得の心得その2】メリットを明確にする

プライドに縛られて一向に話し合いが進まない二人。
そこで龍馬は、互いが得られるメリットを明確にすることから始めた。

「なぜ仲直りする必要があるのか」「どんなメリットがあって同盟を結ぶのか」をはっきりさせ、目的をクリアにしたかったのである。

どちらも敵対してはいたが二人が望む目的は同じ。
徳川幕府を倒し、大政奉還を実現すること。しかし、そう簡単に倒せるはずがないと互いに行き詰った状態。

西郷は「幕府が準備を整える前に潰しておきたい。だが、我が藩だけでは戦力不足である」と誰かの助けを求めていたし、また桂も、「幕府を倒さなければ長州は滅びてしまう。どうにかして武力を高めたい」と悩んでいた。

互いの目的とメリットが見事に一致するのがわかる。
立場や世間体を切り離し、互いの利害が同じであることを明確にしたのだ。

【説得の心得その3】感情に訴えかける

確かに利害は一致するが、やはりプライドは捨てきれない。
そうなると、相手の気持ちを動かすためには感情に訴えて揺さぶるしかない。

ただし、根拠もなく情に訴えかけても効果は薄いだろう。
相手の人柄を観察したうえで、「それを言われると断りづらい」という弱点を刺激する必要がある。

龍馬は桂のいない隙を狙い、西郷に対し、こう言ったそうだ。

「西郷さんよ、こんなことを桂は私に言っていたよ。“もし長州が滅亡したときには、倒幕できるのは薩摩しかいない”と。桂も日本の行く末を真剣に考えているんだな。面子を捨てて、薩摩から長州に同盟を申し込んでくれんかね。これは長州のために言っているんじゃない。日本の未来がかかった話なんじゃ」

そして、桂にも言葉をかけた。

「桂さんよ、そんなに藩が偉いことかね。薩摩がどうした?長州がどうした?大切なのは日本の未来じゃ。私は土佐の武士じゃが、日本の未来のために動いている。長州のためでも薩摩のためでもない、日本のためじゃ。お前らは長州人か、薩摩人か?違うだろ。同じ日本という国の日本人じゃないのか」

立場や世間体を気にする二人に、「お前のプライドのために日本がダメになってもいいのか」と訴求したわけだ。
西郷も桂も「徳川を倒さなければ日本は危うい」という考えは同じだったのである。

【説得の心得その4】放置せず後押しをする

龍馬には秘策があった。それは、イギリスの武器商人を通じて大量に仕入れておいた鉄砲。
むしろ亀山社中(日本で最初の株式会社)を創設したのは、このためだと言っても大げさじゃない。

目的とメリットを明確にし、感情に訴えて心を揺さぶるだけでは不十分。
「最後まで俺が面倒を見る」という責任を形に表し、後押しする姿勢を龍馬は二人に見せた。

「私がもっている鉄砲を好きなように使ってもらってかまわない。だが、それには条件がある。西郷さんは長州に鉄砲を運んでくれ。そして長州は薩摩に米を分け与えてくれんか。薩摩は働き盛りの男が多くて食料があると有難い」

長州は鉄砲を運んでもらった礼に米を薩摩へ運ぶ、これが条件。
当時の薩摩にとって米は貴重な食料であり、長州にとって鉄砲を運ぶほどの人材が整っていなかったので互いにメリットがあった。
これも、龍馬が用意しておいた「説得の材料」だ。

目的とメリットを一致させ、言葉で感情を揺さぶり、最後は相手が喜ぶ条件を出して説得する。
まさに、交渉のプロである。一見すると偶然が重なっているかのように思えるが、そうではない。

相手の人柄を見極める観察力と分析力、目的やメリットを整理するために情報収集したり説得の材料を段取りしたりするなど、すべて結果へと導くためのレールを敷いていたのである。

相手が求めていることをリサーチし、分析して情報を収集するのは説得において重要なスキルだ。
それらの根拠をもとに、的確な言葉で説得しなければならない。根拠がない説得ほど虚しいものはない。

【説得の心得その5】仕事の8割は段取りで決まる

行き当たりばったりで何かを成しえても、それは成功ではないだろう。
ただの“まぐれ”だ。
「仕事の8割は段取りで決まる」と言うが、龍馬の説得をみても段取りの重要さがわかる。

おわりに

今回は、相手の心を動かす説得術を龍馬から学んでみたが、何よりも段取りが必要であることを肝に銘じておきたい。
そのうえで、言葉やコミュニケーションといったスキルが活きてくる。

交渉や説得は、ビジネスシーンや日常生活でも珍しくない。
何か誰かに頼みごとをするときには、ぜひ参考にしてみてはいかがだろうか。

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