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積読…「読まない」ことからはじまる読書のススメ

あなたが、最後に一冊の本を通読したのはいつだろうか。
ついさっき、という人もいれば、一年以上前、という人もいるだろう。
いずれにせよ、忙しい毎日の中で読書のための時間を確保するのは難しい。

余暇があったとしても、ありとあらゆる娯楽の氾濫した現代においては、気になる本を読むところにまで至らない人も多いのではないだろうか。
そんな人たちに是非ともおすすめしたいのが、買った本を積むだけ積んで、読まないスタイル、いわゆる積読(つんどく)である。
否定的、ないしは自虐的なニュアンスで使われることの多い積読だが、停滞しているように思えるその状態に読書の快楽の断片が埋もれている、ということはあまり顧みられていない。
ここでは、積読の持つさまざまな効能を通じて、だれにとっても無理のない、ゆとりある読書の楽しみ方を提案していきたい。

積読の起源とは?

積読とは、本を読まずに「積んでおく」ことと、読書の「読」をかけた合成語だ。
初出は、ことのほか古く1901年(明治34年)の雑誌、『学鐙』において田尻北雷(日本初の法学博士の一人であり、東京市長も勤めた田尻稲次郎の雅号)に「書籍つんどく者を奨説す、音読・黙読以外に、書籍につんどくあり」と用いられたのが起源とされている。

読書の現在

明治時代から存在した積読だが、私たちの読書を取り巻く環境は、百年のうちに大きく変わった。
読書はもはや趣味や娯楽の一等地を占めてはいないし、Amazonも新古書店も電子書籍も当たり前になった。
現代において、物理的に「本を積む」という状況自体が成立しにくくなっていることは間違いないだろう。

あえて、クラシックに…

ここではあえて「紙の本を購入して読まずに積んでおく」という古典的な積読を擁護したい。
もちろん、すぐにでも読みたい本をわざわざ読まずにいる必要はない。

積み上げられた未読の本たちに後ろめたさを感じる必要もないのだ。
積読がどんなに無駄なことだとしても、無駄を通じてしか得られない楽しみがあるということも、ものごとにおける一面の事実なのだから。

「モノ」としての書物

本というものは、装丁に限らず、さまざまな情報を纏っている。
書名、著者名は当然として、出版元、カバーのイラストや写真、帯があれば推薦文、文庫本ならばあらすじ、価格、紙のにおいや質感、厚みと重み、それらすべてを含めた全体のデザイン。

「モノ」としての本は、ページを開いていなくても、ただ存在するだけで私たちの生活に微弱な作用をもたらしている。
そしてその作用は、書物が積み重なることによってより強く、複雑になっていく。

「積む」ことの重要性とは?

もしすぐに手をつける見込みのない本があるのなら、まず身の回りに置くことで意識的に積読のムードを演出してみよう。
本棚でも机の上でも、枕元でも床でも構わない。
書物の「モノ」としての価値を最大限に発揮させるために重要なのは、いつでも手に取ることができ、生活の中で自然に視界に入るような場所に積んでおくことだ。

結果として、積読が幸福な読書に繋がることもあれば、そうならないケースもあるだろう。
いずれにせよ、すべては本を積むことからはじまる。
気になる本があるのならば、環境の許す限り手元に置いておくことを推奨したい。

読書の「旬」を知る。

積読のメリットのひとつとして、読書の「旬」を逃しにくい、という点が挙げられる。
ここでいう「旬」とは、ベストセラーや流行作家のことではなく、書物と読み手とが言葉を通じて、関係を結ぶのに適切なタイミングを指す。

感心の変化を楽しもう

同じ人間が同じ作品を読んでも、十代のころと成人してからでは、まったく異なる感想を抱くのが、読書の面白いところだ。
年齢や知識の有無だけではなく、趣味嗜好や社会状況の変化、季節に天気に時間帯、体調、精神状態など、そのときどきのあらゆる要因によって書物の味わいは大きく変わってくる。

だからこそ、手を伸ばせば、いつでも読める「積読」が有効なのだ。
もちろん、読みたいと思った瞬間にその本を読むことがすなわち旬である、とは限らない。
面白さがわからない本や、太刀打ちできないほど難解な本もあるだろう。
それはそれで構わない。
読む進めることが難しければ積み直してしまえばいい。
その経験が、旬を見極める感覚を養い、熟成期間を置くことで、ふとした拍子に旬がやってくることもある。

「読まない」という選択肢

肝心なのは、読書を義務だと思わないことだ。
無理に本を読むくらいなら、潔く自分の怠惰や不真面目や無能力を認めてしまおう。
義務感にかられて読む本ほど無粋で退屈なものはない。
「本を読まなくてはいけない」義務からの逃避という点においても、積読は有効的だ。

おわりに

人と本との関係は根源的に淡白なものだ。
本を読まなくても人は死なないし、本もだれかに読まれなかったからといって滅びるわけではない。
しかし、たまたま出会った1冊の本によって、想像もしなかったような豊かさが人生にもたらされることも確かにある。

そうした偶然の機会をものにするためにも、ぜひとも「積読」を上手に活用してほしい。
「積読」は気軽な行為だ。

あまり本を読む習慣のない人も、仕事や子育てに追われて本を読む時間のない人も、ひとまず本を買うところから、はじめてみるのはいかがだろうか。
部屋に積まれた本と、「読まなくてもいい」という余裕が、結果として日常生活にすこしでも彩りを添えることになれば幸いだ。

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