熊本地震復興を支える人々の「強い想い・信念」…熊本県黒川温泉へ

2016年4月14日に発生した熊本地震。
その規模は、阪神大震災の約1.4倍ともいわれている。
熊本県阿蘇郡南小国町にある黒川温泉は、震災の風評被害に悩む地域のひとつ。
震災後、黒川温泉への宿泊予約キャンセルは1か月の短い期間で4万人以上、被害総額は約10億円にも上るそうだ。

震災直後は頻繁にとりあげられていた現地のニュース。
1か月、2か月と経ちメディアに取り上げられなくなると、どこか遠い国の出来事のように感じてしまう。
そういった人も少なからずいるのではないだろうか。
震災への意識も薄れていた頃、「どこでも地元メディア　ジモコロ」編集長の徳谷柿次郎さんが主催する復興支援のイベントがあることを知った。

動き出した企画…“黒川温泉で働く方々のために”

震災後、徳谷さんが映像ディレクター・田村祥宏さんに誘われ黒川温泉に赴いた時、つらい時期にも関わらず、黒川温泉の方々がとても温かく迎えてくれたことをきっかけに、「この方たちのために何かがしたい」と強く心を動かされたそうだ。
自分にできることは何かと考えた結果、情報発信のプロフェッショナルであるライター・編集者100人集め、「現地に赴いて」「発信して」黒川の魅力を伝えていこうとイベントを企画するまでに至ったという。

実際には100人以上の参加者が集まったこの企画。
主催者の二人をここまで動かしてしまう黒川温泉の魅力は、いったい何なのだろうか。
実際にイベントへ参加し、体感してみることにした。

「落ち込んでる暇はない！」
走り続ける観光旅館組合理事・北里さんの想い

黒川温泉観光旅館組合理事である北里さんから、震災後の状況についてお話を聞くことができた。
震災直後、今までいっぱいだった予約のキャンセルが多発。

「一向に回復しない状況の中で途方に暮れてしまい、丸一日家にこもり、酒浸りになってしまったこともありました。」
と、必死に涙をこらえながら話し始める北里さん。

つらい状況が続く中、それでもなんとかして黒川温泉の活気を戻したい、落ち込んでいる暇はないと気持ちを奮い立たせ、ひたすらに取り組んできたそうだ。
「好奇心優先でもいいから、とにかく現地に来て熊本を活気づけ、明るい話を発信していただきたい、そう思っています。」
と述べる北里さんの姿は、黒川温泉を想い信念をもって今まで全力疾走してきた様子が伺われる。

こだわりを貫く…“この地で売っていきたい”

黒川温泉組合の方々が企画したツアー。
南小国町で「山吹色のジャージー牛乳」を作成している有限会社「やまぶき」さんのお店へ訪れた。
お店と工場が一緒になった、小さな山小屋のような佇まいだ。

山吹色のジャージー牛乳は、加熱による成分変化が少ないノンホモゲナイズド製法をとっている。
しぼりたてに近い味を提供するため、乳本来のうまみと香りを消さないように、65度という低い温度で30分かけ殺菌していく製法だ。
手間とコストはかかるが、取締役である高村さんは「効率より質」を目指し、この製法にこだわっているのだそう。

「震災直後、お店に直接買いに来てくれるお客さんや、黒川温泉に出荷していた約２割の牛乳が全く売れず、廃棄せざるを得なくなってしまいました。
とはいえ、牛たちに牛乳の量を減らしてくれ、なんて頼むことはできません。
県外の取引先を増やし、販売してしまえばそれでいいかもしれませんが、この地でできた牛乳を、黒川に来てくれた人や直接買いに来てくれる人たちのために残しておきたい。
お客さんが戻ってきてくれるのを願って、取引先は増やさず、今は毎日2,000本を各地へ直接足を運び、なんとか販売しています。」
と、高村さんは語った。

牛乳は、とても濃厚だ。
高村さんの復興への強い想いも、そう感じさせる要因の１つだろう。

誰かの「想い」は大きな力を生み出す

北里さん、高村さんをはじめ、震災で悲しむ人が増えてしまった熊本を盛り上げようと、一生懸命に明るくもてなす南小国町の方々。
彼らの熱い思いが、イベント主催者の心を動かし、参加した100人以上の行動、少なくとも私の心を動かし、どこか“他人ゴト”になり始めていた震災を“自分ゴト”に変えた。

黒川温泉に訪れて、現地の人の声を聴いてほしい。
彼らの黒川温泉に対する愛情やこだわりが、あなたの心も動かすかもしれない。