発泡酒「シードル」の背景に文化あり…フランス・ブルターニュ地方を知り、もっと美食を嗜もう！

りんごの果汁を自然発酵させた微発泡酒『シードル』。
フランスの北西部に位置する『ブルターニュ地方』で生まれたお酒である。
すっきりとした酸味があり、アルコール度数が低くて飲みやすいことから、好んで飲む人もいるのではないだろうか。
今回は、そんなシードルの背景にあるブルターニュ地方の”文化”に着目。
改めて知識を得ることで、より一層、上質な食事時を過ごせるはずだ。

まずは、シードルについての基礎知識。

日本でも馴染みのある“サイダー”の語源ともされる『シードル』。
フランスの最西部『ブルターニュ地方』が産地の発泡酒だ。
シードルは、熟成されたりんごを圧搾機でゆっくり絞り、果汁を樽の中で自然発酵させて作られる。
添加物は一切使わず、本来の糖分がアルコールと炭酸ガスに変化し、2～5％の微アルコール・微炭酸の果実酒となるわけだ。

本場・ブルターニュで使用するりんごは、日本のものと比べて小粒で酸味が強い。
これが、あのさっぱりとした味わいの素となる。
また、通常の大ぶりなりんごよりも、ポリフェノールの含有量が5倍以上。
ビタミン、ミネララル、アミノ酸も豊富だ。
健康面を気にするなら、ワインよりも『シードル』のほうが適しているかもしれない。

ちなみに、ブルターニュとは、フランス語で”イギリス”の意味。
目の前に臨む大西洋のすぐ先に、イギリスがあることから呼ばれるようになった。
また、よく似た地名で”ブルゴーニュ”がある。
ワインの名産地としても有名だが、こちらはフランス東部。
1文字違いなので混合しがちたが、全く別の地域なので注意したい。

ブルターニュ地方に根付く 豊かな食文化

年間1,000万人もの観光客が訪れるブルターニュ地方。
近くには、モンサンミッシェルやサンマロなど観光名所が点在。
英仏海峡と大西洋に突き出した半島で、エメラルド色の海を臨み、豊かな自然に育まれ、独自の文化が根付いている。

また、フランスで最も農業が盛んな地方としても有名だ。
最近では日本人にすっかり馴染んでいるが、ソバ粉を使ったクレープ『ガレット』は、ブルターニュ地方の郷土料理。
そのほか、シードル、ウィスキー、ビールなど、様々な特産品がある。

なかでも、やはりシードルは特産の中の特産。
各農家に必ず植えられているのが、りんごの木。

自家用のシードルを作るためで、特徴である炭酸・渋味・苦味が喉の渇きを断ち切ることから、水よりも多く常飲していたと言われている。
また、焼きりんご、豚肉料理の付合せ、独自のデザートなど、現地の人たちにとって、りんご生産は生活に欠かせない文化なのだ。

また、大西洋が目の前にあることから漁業も盛ん。
約8,000人が漁業に従事しており、年間14万トン以上もの水揚げが行われている。
あのナポレオンが好んだとされる、カンカルの牡蠣はとても有名。

モンサンミッシェル湾の浅瀬が産む豊富なプランクトンが、肉厚で濃厚な牡蠣を育てる。
特産品のムール貝と共に、フランスの最高級品と称されているのだ。

豊かな自然に育まれた、豊かな食文化。
1本のシードルの背景には、ブルターニュの物語が息づいているのである。

シードルのお供は、ソバで決まり！

先述した通り、ソバはブルターニュ地方の特産品。
痩せた土地でもよく育つソバを使った『ガレット』は、数世紀の間、ブルターニュ地方の主食だった。
それ以降はパンが主食に変わっていったが、カフェの数よりもクレープリー（クレープ料理店）の方が多いくらい、現地の人たちに馴染み深い食べ物なのだ。

また、ガレットとシードルの相性は抜群。
卵、ハム、チーズ、クリームを使用するガレットの脂っこさを、すっきりとした酸味と微炭酸のシードルがさっぱりと洗い流してくれる。
両者を引き立てる最高のパートナーといえるだろう。
実際、前菜とデザートにガレットが使われ、食前酒と食後にシードルを嗜む食事の流れが、ブルターニュ地方には根付いている。

栄養価の高いソバを使ったガレットは、特に女性に人気のメニュー。
しかし、肥満予防、血中コレステロール低下など、男性も見逃せない効果がある。
しかも、水に溶かしたソバ粉を生地にするガレットは、その栄養素を余すことなく摂取できる。
日本の蕎麦は、茹でることでどうしても栄養素が抜け落ちてしまうのだ（だから蕎麦湯は身体に良い）。

日本にあるガレット専門店では、シードルも合わせて提供しているはず。
ブルターニュの人たちに習って、あなたもフードペアリングを楽しんでほしい。

おわりに

ここまで読み進めれば、次に飲むシードルは全く違う味わいになるはずだ。
シードルの背景にある物語を知る。
たったそれだけで、今までと全く違う見方ができるし、1杯の味わいにぐっと深みが増すのである。
もちろん、それはシードルに限った話ではない。
「これを食べないと生きていけない」「これを飲めば元気になれる」、あなたにとって大事な一品があるのなら、その背景に目を向けてみてはいかがだろうか。
より一層、手放せないパートナーとなるはずである。