クーラーでは味わえない涼しさを……風情ある「涼」を届ける風鈴。
日本の暑い夏。
家の中にいても、むせ返るようなその熱気は、否が応にも襲ってくる。
だから、今日も仕方なくクーラーのスイッチを点ける……
そんな繰り返しの日々に辟易したとき、風に揺れ、涼やかな歌声を上げるあの音色を思い出して欲しい。
「チリン、チリ、チリ……チリィィィーン」
そう、「風鈴」だ。
風情を感じ「涼」を取るため、この夏、風鈴を吊るしてみてはいかがだろうか。
風鈴の歴史
~中国の呪術道具が日本の夏の風物詩となるまで~
日本の夏の風物詩の一つに数えられる「風鈴」。
そのルーツは中国にあると言われている。
竹の枝に吊り下げ、音の鳴り方で物事の吉兆を占う道具「占風鐸(せんふうたく)」が仏教と共に日本に伝来し、寺院の屋根の四隅にかかる「風鐸」となった。
「ガランガラン」となるその音には厄除けの効果があると信じられていたそうだ。
その「風鐸」が長い年月をかけ呪術的な要素を削り、形や音色に重きを置くようになり、やがて夏に「涼」を取るための道具となったのが「風鈴」なのだ。
長い年月をかけて根付いてきた伝統文化だからこそ、国民皆に愛されているのだろう。
風鈴の音色
~何故、ここまで人を心地良い気分に~
その秘密はズバリ、不規則な音の揺れにある。
言うならばそれは、「1/fゆらぎ」。
これは、自然の中にある連続的でありながら一定ではない揺れを指す言葉で、例えるなら小川のせせらぎや小鳥のさえずり……
私たち人間は、自然界にある不規則な音の揺らぎを心地よく感じ聞き取る生き物。
そして、風鈴を鳴らすのは「風」。
目に見えない風も風鈴の音色を通して感じ取ることができ、その結果「涼」を味わえるのだ。
耳で感じ、選ぶ風鈴 ~アナタに合った一品を~
1.ガラス風鈴(江戸風鈴)
「風鈴」と聞いて、最初にイメージするのはガラス製だろう。
「チリチリチリ」と乾いたような音色が特徴で、透明な見た目も「涼」を一層感じさせる。
切り口のギザギザが独特な音の揺らぎを生んでいて、正に職人の成せる技だ。
2.南部風鈴
その名の通り、素材は南部鉄器。
約900年の歴史を誇る風鈴界の大御所。
「リーン」という奥行きのある高音で、重厚感あるデザインが特徴。
毎年6月から8月、岩手県の奥州市「水沢駅」のホームに吊るされる南部風鈴の音色は「日本の音風景100選」にも選ばれている。
3.小田原風鈴
黒沢明監督の映画『赤ひげ』の1シーンで使用されている。
妥協を許さない演出で有名な監督だが、銅に鈴などを混ぜた合金「砂張(さはり)」で造られた小田原風鈴の音色には心打たれたと言う。
音色の余韻の長さが何よりの特徴で、その高級感から風鈴界のベンツとも言われているらしい。
おわりに
日本人は古来より四季の移り変わりを愛しみ、季節毎の風情を楽しみながら生活を営んできた。
確かにクーラーは便利だ。
だが、自然を、風を利用して音色を奏でる「風鈴」だからこそ味わえる「涼」というものがある。
風に揺れる風鈴の音色に耳を澄ませながら、夏の“粋”をアナタにも是非感じて頂きたい。